フープフラフープ

はらの趣味です

692円

 

最寄駅の改札にかざしたiPhoneにうつる692円という文字が東京との距離を物語る。近い気もするし、遠い気もする。今日の運賃は、往復で1800円くらい。映画一本分くらいの値段と、短めの映画二本分くらいの時間がかかる。

 

友達の「あなたにとって、映画館で映画を観ることは特別なことなんでしょう?」という言葉に背中を押されて、新文芸坐で「パルプ・フィクション」を観てきた夜に、これを書いている。正直当日の14時くらいまで「めんどくせ〜」がちょっと勝っていたけれど、Twitterで映画の冒頭シーンをみていたらすごくかっこよくて、それが最後のひと押しになってインターネットでチケットを予約した。日曜日に買おうと思っていたスニーカーを買ってしまうために早めに家を出て、電車を乗り継いで池袋に向かう。それなりにガラガラなのに、端に座るわたしに背を向けて半分覆い被さるように立っている女の人にいやだなあと思い席を立った。譲れということなのかと思ったのに全く座る気配がなかったから、なんなのよと思いながら電車を降りてPARCOに向かう。目当ての靴屋で目当てのスニーカーを試着したら、思っていたよりずっとかわいくてすぐに購入した。自分にぴたりとハマるなにかと出会えた時の高揚感はすごく気持ちが良い。わたしはこの靴を、今後長い間大切に履き続けることになるだろう。

PARCOのレストラン街の抹茶のお店で夕ご飯を食べて、新文芸坐へと向かう。ここへ来るのは3、4年前に昔の恋人と「ハッピーデスデイ」「ハッピーデスデイ2U」を観にきた時以来だ。その日は東京コミコンの日で、コミコンから映画をハシゴしたのを覚えている。別れた相手を映画に誘った自分の気持ちは、あまり思い出せない。なにがしたかったんだろう。

エレベーターに乗り劇場に到着すると、ロビーは人でごった返していた。もしかしたらTwitterのタイムラインにいる人がこの場所にいるかもしれないということに、インターネットと現実の境目の曖昧さを感じながら、チケットを提示して座席へと向かう。5分の予告の後に、「パルプ・フィクション」が始まる。

どハマりしたかと言われるとそんなことはないけれど、映画館で観ることができてよかったと心の底から思う。この映画を褒める人の気持ちも貶す人の気持ちも両方よくわかる。観終わってすぐはそんなに気持ちが湧き立たなかったけど、四半日経った今、映画の好きなシーンがたくさん思い浮かぶ。この映画のこと、もしかしたら好きなのかもしれない。よくわからない。ふるったかふるわないかで言うと、ちょっとふるっている。

 

映画を評することは難しい。「良かった」「悪かった」「面白かった」「つまらなかった」「好きだった」「嫌いだった」「すごかった」「しょぼかった」、それってひとつの要素でしかなくて、「良い映画だけど好きじゃない」とか、「面白かったけどクソ映画」とか、そういうのを総合した言葉として「ふるった」「ふるわなかった」という表現をわたしは使う。漢字は「猛威を奮う」の「ふるう」で、映画がわたしに対して投げかけたなにかが、わたしに影響を及ぼしている、みたいなイメージ。便利な言葉なので、よかったら使ってみてね。