フープフラフープ

はらの趣味です

カスタネットを叩いて踊るのさ

 

仕事を終え、普段なら散歩がてら喫茶店で夕ご飯を食べて帰るのだけど、最近寒すぎるからいつもバスを使っている。バスから外を眺めていたらお好み焼き屋さんがあって、とても食べたかったけど面倒で一人で入る気になれず、バスを降りてからちょっと戻って前を通り過ぎるだけにしておいた。電車に乗って、乗り換えの駅で降りて、改札内にあるドトールに滑り込んだ。

食べるものは決まっていた。ミラノサンドAだ。ドトールミラノサンドはできたてが本当に美味しい。さくさくのパンに挟まれたシャキシャキのレタスと具材。限定品もいいけれど、シンプルで食べやすく変わらない味のミラノサンドAが大好きで、いつもこれを頼んでしまう。大学時代、憧れの先輩の真似をして試験勉強のためドトールに通い詰めていた頃はミラノサンドBやツナチーズのサンドを食べたりもしていたけれど、ドトール自体にあまり通わなくなるとA一択になってしまう。

飲み物に目をうつすと、タピオカドリンクが目に入った。5年くらい前に流行りに流行って、インターネットでバカにされまくっていたタピオカドリンク。わたしはタピオカという食べ物が大好きなのでタピオカドリンクを飲むという行為がバカにされることが悲しいし、タピオカを飲むという行為を祭り上げて美味しくないタピオカドリンクを量産した世間が憎い。しかも量産タピオカに付随するミルクティーは大抵まずい。黒糖ミルクは甘すぎる。あと、殺意を疑うくらい量が多い。カロリーの暴力。そもそも、タピオカ自体にやる気がない場合もある。いつか飲んだTOHOシネマズ日比谷のタピオカドリンクは最悪だった。

わたしは冬になるといつも体重が増えてしまう。今朝鏡を見たらアゴが二重になっていた。普段も下を向くと二重になるけど、今日は前を向いていても二重だった。これはまずい、ダイエットをしよう。と誓ったのが12時間前だ。

ドトールのメニューの前で、ダイエットとタピオカがわたしのために争っている。仕事の疲れと空腹が糖分を援護射撃して、一瞬でタピオカが勝利した。しかもミルクティーじゃなくて黒糖ミルクのほうが選ばれた。こういうとき、「どうせヤバいやつを摂るなら多少ヤバさが増してもいちばん好きなやつを摂ったほうがよくない?」という考えになってしまう。黒糖と牛乳とタピオカの相性って、最強だから……

「どうせ」の考えが暴走して、気づいたらかぼちゃのタルトもお盆に乗っていた。タルトって、おいしいから……

「タピオカはやめなさい」と言ってくれる人がいれば、素直に従うことのできる人間なのだ、わたしは。わるく言えば「流されやすい」よく言えば「素直」。人の特徴は長所にも短所にもなりうるって、就職活動のときに学んだ。素直なわたしは「とめてもらえればやめるのにな〜」と思いながら席に着く。まずは黒糖ミルクを混ぜ、タピオカを一口。ドトールのタピオカはもっちりしていて優しい甘さが最高。黒糖も控えめになっていて、タピオカの裏からちょうどよく黒糖の風味が広がる。選んでよかった……

2人がけのテーブル席で店内に流れるクリスマスソングを聴きながらタピオカ黒糖ミルクの甘さとミラノサンドのしょっぱさを交互に味わう。いつもいく喫茶店でも、11月くらいからずっとクリスマスソングが流れている。クリスマスソングはクリスマスに流してくださいよ、と、12月の空気感が苦手なわたしは思うのだった。あっという間にミラノサンドがどこかに消えてしまった。まだ食べたい。

手前と奥の皿をいれかえて、かぼちゃのタルトにお目にかかった。頼んで正解だったと、食べる前からわかる。フォークを入れると、思ったよりも柔らかくすぐに一口大が削り取れた。ゆっくり頬張って、何回も噛んで、口の中にまとわりつくかぼちゃのクリームの余韻を楽しむ。ふんわりしたかぼちゃの二層クリームに、その上に乗るほんのり甘いゼリー、主張の薄い土台部分も、そのサクサクな食感が噛み心地にアクセントを与えてくれる。うますぎるよ……

かぼちゃのタルトが甘いので、合間に飲む黒糖ミルクはほとんど甘さを感じなくなった。牛乳単品も好きなので、これはこれで良い。何も足さずに味変ができるなんて、なんて画期的なんだ……

タルトを食べ終えたら、残った飲み物を片手に村上春樹の「風の歌を聴け」を読み始めた。一年前ドライブマイカーを薦めてくれた村上春樹好きの友達が、「村上春樹の最高傑作」と称した本だ。こうなってくるといよいよカップの中の水分は吸い尽くされていて、底に点在するタピオカを啜るのみとなった。この作業はあまり好きではない。似たようなことで、缶のコーンスープの底に澱んだコーンたちを食べようとする作業も嫌いだ。ストローを操ってひとつひとつタピオカを口に入れていく。氷とほとんど水になった牛乳も一緒に口に入る。よくない。

タピオカも尽きたので、本をとじて席を立つ。電車の中で読めるように、本はスマホと一緒にコートのポケットにしまった。文庫本の入る大きなポケット、嬉しい。トレイを片付けてレジカウンターを通り過ぎて店を出たら、店員さんがすれ違う順に「恐れ入ります」と言った。水の波紋が広がるみたいだった。ダウ90000の「路上」というコントを思い出して、電車で久しぶりに観たら面白かった。