フープフラフープ

はらの趣味です

王様ランキングとレッテルの話

 

先日、マッチングアプリの達人みたいな友人にマッチングアプリの使い方を教わった。達人は、会う会わないを別として相手のおすすめの映画を必ず聞くようにしているらしい。

達人は映画好きなので、たまにおすすめを教え合って互いにフィルマークスに記録している。最近教わったおすすめが映画じゃないけど「王様ランキング」で、彼はこのアニメをアプリでマッチした女の子から教えてもらったという。

 

早速ゾンプラ*1で王様ランキングを見始めたのだけど、これが本当に面白くてびっくりした。巷の評判とフィルマークスの評価はやはり正しくて、1日1話くらいで観ようと思っていたのに気付いたら1日で5話まで一気見してしまった。

簡単に言うと、耳が聞こえず言葉が話せない非力な王子が強い王様を目指して旅をする話で、ほんわか可愛らしい絵柄とは裏腹にまぁまぁ血が出るし、えげつない話でわりとメンタルに来る。それでも続きをみたいと思わせるのは、キャラクターひとりひとりに好感が持てるということが大きいなと思う。心ない人間も出てくるけど、多くの人は優しくて強い信念を持っていて、それぞれの信念を守っているが故に悲しい出来事が起きてしまうのだ。その辛さと優しさのバランスが絶妙すぎる。

 

9話までしか観ていないけれど、ここからネタバレも含めて書こうと思う。まだ観てないのなら、わたしと同じ気持ちになって欲しいので読まずにとりあえず3話まで観てきてほしい。

 

人間の多面性を、わたしはよく忘れてしまう。

この人はこういう人だとレッテルを貼り、それが自分の意にそぐわなければ距離を取り、こういう人と決めつけて扱ってしまうところがある。

フィクションの世界はレッテルの連続だ。多くの作品でわたしたちは神様視点で事象を俯瞰し、登場人物それぞれにレッテルを貼りながら作品を鑑賞する。「実はこういう人でした」というどんでん返しでレッテルがひっくり返ることもあるけれど、多くの場合それは作品のオチや転換に使われる重要な場面で判明するし、黒幕的なキャラクターにのみ行われる。そうしないとキャラクター性がぶれて見ずらい作品となってしまうからだ。

王様ランキングは、そのレッテルの貼り替えがすごく上手な作品だと思う。貼り替えというか、もはやレッテルを貼ることそのものが間違っていたのだと思い知らされる。人間は多面的な生き物なのだと思い出させてくれる。

 

この作品はキャラクターの特徴がそのまま名前になっていることが多い。影の一族「カゲ」、顔にホクロがある「ホクロ」なんてそのまんますぎる名前もあるくらいだ*2。初登場時には簡単な説明と名前がテロップに出てくるため、まずそこでわたしたちはキャラクターにレッテルを貼ってしまう。

キャラクターデザインもシンプルだが一目でキャラクター性を的確に想像させるものとなっている。顔色の悪いへび使いやプライドの高そうな王妃と第二王子など、その見た目もレッテル貼りに一役を買っている。

もちろん彼らはわたしたちが想像した通りの言動をするため、登場回でキャラクター像を固定させ、貼られたレッテルを強固なものにする。

それを突如目の前で丁寧に剥がしビリビリに破いていくアニメが「王様ランキング」だ。

 

3話では、ヒリングという主人公の継母のレッテルが剥がされる。鼻が高くジト目でいかにもプライドが高そうな王妃で、1話では主人公に心ない言葉を浴びせる「嫌な継母」のテンプレートのような人間に描かれていた。それが実は主人公のことを深く愛していて、不器用が故に素直に愛を表現できないだけの人だと明かされ、わたしは一気にこのキャラクターが大好きになってしまった。

それぞれのキャラクターの信念の貫き方や愛する人の守り方を回想を交えて丁寧に描くことで、孤独だと思っていた主人公は実はまわりのみんなから愛されていることが徐々にわかっていく。回想の入るタイミングがものすごく絶妙で、その度に無意識に貼ってしまっていたレッテルに気づいてはっとする。こうしたプロセスをクライマックスにもってくるのではなく、数話に一度くらいの頻度でサラッとやってのける脚本が素晴らしい。9話で襲いくるモンスターですら家族と静かに暮らすシーンが挟まれた時には、どんだけ一貫して多面性見せてくるんだよと感心した。

 

現実でもフィクションでも人間が多面的だということは実は当たり前のことで、正義を叫び続けるキャラが画面外で鼻くそをその辺に捨てているかもしれないし、嫌味なキャラが家ではすごく優しいお父さんかもしれない。でも物語の都合上、それは一切描かれない。現実でもわたしたちが見ている相手はわたしたちに見せている相手でしかなくて、上司は上司としての姿しか知らないし、友達は友達としての姿しか知らないし、親は親としての姿しか知らない。逆に言えば、わたしだって上司にとっては部下だし、友達にとっては友達だし、親にとっては子供なのだ。ある程度のレッテルを介して、わたしたちは人と関わっている。だからその人の知らなかった一面を知って怖くなってしまうことがある。こうしてまた新しいレッテルが貼られる。

それで何回か失敗もしてきた。今思うと損していることだってあったと思う。もっとあの子と仲良くなる努力をすればよかった、とかね。

レッテルを貼らずに誰かと関わるのって理解する努力が伴ってけっこう労力のいることだと思うから全員には無理だけど、少なくとも本当に好きな人たちのことはその人をその人として知りたいし、知らない一面も受け入れられる人でありたい。

他人に対してだけじゃなく自分にも「わたしはこういう人だから」と貼っていたレッテルを剥がして生きられたら、もっと生きやすくなれるのかなとも思う。

 

王様ランキングに話が戻るけど、脚本だけじゃなくて、作画も綺麗で見やすい(ごはんが美味しそう!)し、声優陣の演技が素晴らしい。あとわたしがアニメを見まくっていた高校時代に中学生役とかやってたひとたちがお母さん役とかやってて時の流れにびびる。

オープニングとエンディングもめちゃくちゃアニメにマッチしてて*3、どこにも手を抜かずに最高の作品にしようって気概が感じられる。オープニングの「BOY」を初めて聴いた時は、聴き心地が良すぎて巻き戻して何回か聴いてしまった。

冒頭の「美しさで」の半音気持ち良すぎじゃない???サビとそれ以外でバッキングの刻み方が変わって雰囲気がガラッと変わるの、まさにこのアニメの多面性を表してるみたいで好き。

MVもジャケットも良い。松本大洋鉄コン筋クリートを思い出したのわたしだけじゃないよね。

 

というわけで、この先も観るのがすごく楽しみ。はやく全部観たい。

達人とマッチした女の子、王様ランキングを布教してくれてありがとう。

 

 

*1:ゾンプラっていう人間食べ食べカエルさんの言い方すき

*2:後で気づいたけどダイダってもしかして代打ってこと…?エグ、って思って調べたらダイダとボッジでダイダラボッチ説があるみたい

*3:King Gnuの常田さんが呪術廻戦0のインタビューで「アニメの曲をやる時は作品の奴隷になってる」って言ってたの思い出した